「クラフトフィッシュバーガー」開発秘話

「クラフトフィッシュバーガー」開発秘話

“美味しい”の先へ。世界を渡り歩いた一流シェフが創る、未来志向のファストフード 「クラフトフィッシュバーガー」開発秘話

「プロの料理人である以上、最高に美味しいことは当たり前。その先に何を表現できるが、僕らの本当の勝負どころです」
「SOAK」エグゼクティブシェフ 長屋英章

関西電力の子会社「海幸ゆきのや合同会社」が完全養殖するバナメイエビ「幸えび」を使用した「クラフトフィッシュバーガー」を提供するレストラン&バー「SOAK」(渋谷)が、「食べ物語AWARDS&試食会 2022春」で「目にもおいしい読みごたえ賞」を受賞しました。「SOAK」のエグゼクティブシェフであり、CRAFT FISHのアンバサダーを務める長屋英章(ながや ひであき)シェフに、「クラフトフィッシュバーガー」開発秘話を伺いました。

掲げたテーマは「食べながら、未来の食を考える」フィッシュバーガー

――初代「食べ物語AWARDS&試食会」の受賞、おめでとうございます! まずは「クラフトフィッシュバーガー」に込めたメッセージを教えてください。

ありがとうございます。料理の世界に入って25年、世界各国でのさまざまな体験を経て、僕が今渋谷の街から料理人として表現できることは何だろうと考えた時に、「日本の未来を考えるファストフード」という一つの答えにたどり着きました。

日本には古くから「天然魚こそ、最高の美味で善だ」という根深い“天然神話”があります。しかし、一部の天然の魚には、水銀などの有害物質が含まれていることをどれほどの方が意識しているでしょうか。



4年前に香港に移住した時、現地の富裕層の方々は、水銀を少しでも含む可能性がある魚を一切口にしないことに衝撃を受けました。彼らの食材選びの価値基準に「養殖か天然か」のモノサシはなく、「安心・安全」であることが第一条件。さらにはそれが良質であれば、どんなに高額であっても出費を惜しみません。実際に香港ではすでに、同じレベルの食材が日本よりもはるかに高値で取り引きされています。このままいけば、世界の良質な食材はもちろん、日本で生産された食材までも、よいものはすべて海外に流れてしまい、日本国内にはB級品……、いや、C・D級品しか残らない可能性があるのです。

日本の食文化を守るため、また世界へ広げていくためにも、今ある水産資源を守るだけでなく、新たに増やしていかなければいけない――。「クラフトフィッシュバーガー」には、そんな警鐘を鳴らす意味も込めています。ファストフードであるバーガーに仕立てたのは、まさに渋谷を象徴する料理であり、コースの中で驚きとインパクトを与えることで、より意識を高めてもらえると思ったから。クラフトフィッシュバーガーが、日本の未来の食を考えるきっかけになれば嬉しいですね。

「クラフトフィッシュバーガー」はコースの中盤で提供。ペアリングには、本来は破棄される日本酒の材料でリメイクした東京発のクラフトジンを使ったカクテル。

 

―― 長屋シェフが考える、クラフトフィッシュの価値とはどのようなものですか?

“生で食べられる”というクオリティの高さです。養殖魚の最大のメリットは、飼料や水質を徹底的に管理することで、危険な寄生虫や有害物質を排除できることだと考えています。それによって、鯖や鮭など、天然物では食中毒の危険性から生食できない魚でも生で食べることが可能になり、料理の幅は大きく広がります。

生食ができる高いレベルでの安全性と美味しさを両立させたクラフトフィッシュは、いわばジャパンクオリティといえるでしょう。今回幸えびを使うにあたっても、真っ先に「生で食べられますか?」と確認しました。それができなければ、フレッシュな料理はもちろん、レアな火入れすらできず、料理人が描きたいものが忠実に表現できませんからね。世界の一流料理人たちに認めてもらうためにも、必要な条件だと思っています。

 

手掴みサイズのバーガーに詰まった、「医食同源」とガストロノミーの世界

――フィッシュバーガーに仕立てる上で、こだわった点を教えてください。

確かにビジュアルはファストフードですが、この小さなバーガーには、僕が培ってきたガストロノミーの技術や、僕の料理の根幹である「医食同源」の考えが詰まっています。

たとえば、メインの幸えびのフライは、ぶつ切りにした幸えびにすりおろしたレンコンを合わせて揚げています。一般的なフィッシュバーガーのような魚のすり身のフライは、どうしても味も食感も単調になってしまいますが、おろしたレンコンは火を入れると独特のもちっとした食感に変わり、中に隠れた幸えびのほどよい歯ごたえや、刻み野菜をたっぷり使ったソースのシャキシャキ感と重なることで、メリハリとリズムを生みます。

 

実は野菜のすりながしは、日本料理らしい鮮度の良い食材の活かし方なんですよ。日本の未来を担う食材を使い、ここ日本で料理人として表現するからには、やはり日本の文化に根ざしていることが海外から見た時の武器になると考え、取り入れました。

それからもう一つ、バンズも大きなポイントです。今回はフィッシュバーガー専用に、香港の蒸しパンをベースにした自家製のパンを使っています。欧米スタイルの焼いたパンは、風味も食感も主張が強く、どうしてもフィッシュバーガーに合わせるにはしっくり来なくて。このクラフトフィッシュバーガーにおいて、バンズはあくまで名脇役。「身体にいいこと」も一つのコンセプトなので、精製したグラニュー糖を使わずにビーツの甘みで仕上げてます。

――長屋シェフの料理のベースはフレンチですよね。となれば、気になるソースについても教えていただけますか?

2種類のソースを使っています。一つは、以前住んでいたことがあるフランス・マルセイユの郷土料理、ブイヤベースをベースにした魚介の風味が豊かなソース。もう一つは、フランス料理では定番の、卵とハーブを使ったグリビッシュソースです。刻み野菜やハーブと共に、幸えびとレンコンのフライに合うよう、アクセントとして奈良漬けを加えているのが特徴です。

ビーツのやさしい甘みと、しっとりもちっとしたバンズが、繊細な食感のフライやソースの旨みを引き立てる。

――最後に、今後の展望を聞かせてください!

正直、こんなにも早く賞をいただけるとは思ってもみなかったので少し驚いています。ただ、僕らがチーム一丸となって表現したメッセージは、今の日本の世の中で求められていることなのだと実感でき、自信になりました。支持されなければ単なるエゴで終わってしまいますからね。

こうして認めていただけることで、次のステップへ、そして新しい料理へのチャレンジにつなげることができます。実は、クラフトフィッシュバーガー専門店をやりたいという構想があるんです。ジャパンクオリティのクラフトフィッシュを使い、プロの料理人が最高の技術を駆使して作るフィッシュバーガーで、日本のファストフードを変え、食への意識を変えたい。子供への食育を推進しながらも、同じように大人たちの意識を変えなければ日本の食の未来は変わりません。

「新たな『クラフトフィッシュバーガー』として、『Smolt』のサクラマスや『つきみいくら』を使用したものを考案中です」

僕らはプロですから、美味しいものを作るのは当たり前です。その先に何を描き、何を伝えることができるかが、表現者としての料理人の腕の見せどころだと思っています。

写真・広瀬美佳  文・山本愛理

 

SOAK

住所  東京都渋谷区神宮前6-20-10 MIYASHITA PARK North18F
TEL 03-6427-9989
アクセス 東京メトロ各線 渋谷駅B1出口より徒歩3分、JR渋谷駅ハチ公口より徒歩7分
営業時間 18:30~21:00
定休日 月曜
支払い クレジットカード可(JCB、AMEX、VISA、MASTER、Diners)
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