「美らハタの持ち味を最大限に活かしながら、家族みんなで食べられる親しみのある味付けにしたかった」
「ARBOL」シェフ 古田 崇
古来より、沖縄ではごちそうに⽋かせない⿂として親しまれてきたヤイトハタ。「沖縄ミーバイ」とも呼ばれ、琉球が誇る⽩⾝の王様として珍重されています。しかし近年、その数は急減。沖縄の歴史や食文化を未来へとつないでいくために、琉球⼤学は中城村養殖技術研究センター(NAICe)と連携してヤイトハタの陸上養殖に着手し、安全で美味しい「美(ちゅ)らハタ」づくりに成功しました。この「美らハタ」をご家庭で手軽に味わっていただきたいと、「美らハタの揚げ⿂」を開発したスターシェフ、「ARBOL」の古田崇(ふるた たかし)シェフに開発秘話をうかがいました。
稀少なヤイトハタが手の届くものに。「美らハタ」は料理界にとっても画期的な食材
―まずは、初めて「美らハタ」を召し上がった時の印象を聞かせてください。
何よりまず、その稀少性から僕ら料理人ですらめったに使うことのない高級魚のヤイトハタを、こうしてご家庭にお届けできる時代が来ていることに驚きました。まさに日本の養殖技術の発展が生んだ、大きな成果の一つといえるのではないでしょうか。より安定的に手に入るようになれば、料理界にとっても画期的なことです。
非常に楽しみにしていた味も、飼料や水質がきちんと管理されているおかげで泥臭さが少なく、旨みがダイレクトに感じられることが印象的でしたね。いい魚の証しであるスッとほぐれるような身離れの良さや、ヤイトハタ特有の皮下の豊富なゼラチン質もしっかり感じられたので、どのように調理して皆さまにお届けしようかとワクワクしました。
―今回、黒酢あんかけの揚げ魚に仕立てられたのはどのような理由からでしょうか?
ヤイトハタはなかなか市場に出回ることがないので、馴染みがないという方も多いかもしれませんが、クセがなく、しっとり・ぷりっとした身質の白身魚です。しっかりと旨みがあり、老若男女問わず親しんでいただける美味しさ。ですので、美らハタも多くの方のお口に合うはずと自信はあったものの、その珍しさから「どんな魚だろう?」と思われる方も少なくないかもしれないという懸念がありました。そういった方々にもまずは手に取ってもらえるよう、イメージが湧きやすい味付けにしたいと思ったんです。
繊細な旨みやほどよい弾力といった、美らハタのポテンシャルを最大限に活かしながら、家族みんなで食べられるような親しみのある料理……。いろいろ考えた末に、黒酢であれば酢豚などにもよく使われる中華の定番の味として馴染みのあるものですし、健康や美容を意識されている女性にも積極的に召し上がっていただけるのでは? と思い、黒酢あんかけに決めました。生産者の努力も美らハタの美味しさも、まずは手に取ってもらえなければ伝わりませんからね。
美味しさのためには、手間を惜しまない。皮まで堪能できる一品に
―特にこだわったのはどのような点ですか?
今回の料理に限らず、僕は常に“味付けしすぎないこと”を心がけています。あんかけという料理であっても、あんの味ですべてを覆ってしまうのではなく、“素材の味を楽しむあんかけ”にしたい。それが第一条件でした。
今回の美らハタは、軽く片栗粉をまぶして皮ごとカリッと揚げています。試作の際、蒸したり湯通ししたり、いくつかの方法で調理してみたのですが、揚げた時がいちばん旨みを強く感じられて臭みも少なかったんです。同じヤイトハタでも蒸し料理の方が向いているものもあるので、何が最善かは、やはり実際に調理して判断します。
黒酢あんは極力甘さを抑えた味付けに。甘みが強いと、美らハタそのものの味を感じにくくなってしまうからです。たっぷり入った蒸し野菜から自然な美味しい甘みが出るので、あんには無駄な調味料を加えず、黒酢とブイヨン、酒などでシンプルに仕上げています。「甘酢あん」ではなく、あくまで「黒酢あん」。まろやかでスッキリとした酸味で、美らハタそのものの味をじっくり楽しんでいただけると嬉しいですね。
―苦労したのはどのような点ですか?
これがいろいろ、大変だったんですよ……(笑)。いちばん悩ましかったのは、皮の調理です。一般的にヤイトハタには皮の下にゼラチン質が豊富にあって、旨みが詰まっていたり、ぷりっとした食感が楽しめたりと、この魚の醍醐味でもあります。特に美らハタは、生産者の皆さんが丹精込めて育ててくださっているおかげで泥臭さも少ないので、皮まで余すことなく召し上がっていただきたいと思っていました。
ただ、表面に小さなウロコがたくさんあって、きちんと処理をしなければ舌触りが悪くなり、ウロコに臭みも残ってしまうため、逆に美味しさの仇になりかねませんでした。なかなかうまくいかず、いっそ皮を剥いでしまおうか思ったこともあったのですが、やっぱり皮付きの方が断然美味しいので、諦めきれなくて。
最終的には、手間を惜しまず表面のウロコは丁寧に取り除いてから調理すること。さらに、ムラなくキレイに揚がるような粉の付け方や、皮も身も固くなりすぎない揚げ時間・温度も何度も加減して、なんとか納得いくものが完成しました。
食べ終わったお皿の上に何も残っていないことって、生産者にとってはもちろん、料理人にとっても嬉しいことなんです。魚の皮が苦手という方にも、ぜひ召し上がってみていただきたいですね。
―最後に、皆さまにメッセージをお願いします!
今回はあんの甘さを抑えている分、自然な甘みを足してくれる野菜にもしっかりこだわっています。ご家庭用の商品にはメインの肉や魚しか入っていないものも多い中で、これ一つを器に盛るだけで、味も見た目もレストランと同じものが再現できるよう、彩りや食感のコントラストも意識しました。もともとヤイトハタはお祝いの席でよく食べられる魚でもありますし、ぜひ、結婚記念日などの大切な人と過ごす特別な日に召し上がっていただきたいですね。皆さんの思い出の中に、この料理があれば嬉しいです。
雅宝 ARBOL
住所 | 東京都千代田区神田淡路町2-23-7 |
TEL | 03-6811-6050 |
アクセス | 東京メトロ丸の内線 淡路町駅より徒歩3分 |
営業時間 | 月〜金曜 11:30〜15:00 (14:00 L.O.)/ 17:00〜23:00(22:00 L.O.) 土曜 11:30〜15:00(14:00 L.O.)/ 17:00〜21:00(20:00 L.O.) |
定休日 | 日曜 |
支払い | クレジットカード可(JCB、AMEX、VISA、MASTER、Diners) |
HP | 雅宝 ARBOL |
写真・広瀬美佳 文・山本愛理