鈴木 利幸

Suzuki Toshiyuki

鈴木 利幸
「日本橋 蕎ノ字」店主

静岡食材で魅せる、江戸の粋。蕎麦で〆る天ぷら店

「天ぷら食って、蕎麦で〆る」。店頭の暖簾に書かれた、なんとも粋な文句が、「日本橋 蕎ノ字」のコンセプト。静岡食材の天ぷらのコースを手打ちの二八蕎麦で〆るという、2つの江戸前料理を同時に味わうのがこの店のスタイルです。

「大のおじいちゃん子だった」と語る店主・鈴木利幸さんは、静岡県島田市で4代続く蕎麦屋の生まれ。天ぷらを揚げる祖父の姿に憧れ、その祖父から天ぷらを、父から蕎麦打ちを学びました。

日本食の修業も積んだものの、天ぷらへの情熱は絶えることなく30歳で独立すると、地元・静岡で天ぷらと蕎麦をコースで提供する「蕎ノ字」をオープン。2016年に「日本橋 蕎ノ字」として日本橋に移転し、2019、2020年と2年連続でミシュラン1つ星を獲得しました。

「天ぷらも蕎麦も、江戸前料理。どちらの聖地でもあるここ日本橋で、静岡の食材が活きる天ぷらをこれからも追求していきたい」と、鈴木さん。静岡の農家や漁師とのつながりは強く、玉取茸、にんじん、じゃがいもなどの野菜から、太刀魚、金目鯛、平目、鯵といった地魚まで、今もほとんどの食材を生産者から直接仕入れています。

蕎の字

CHEF'S VOICE:
「高級魚=善」ではない。自分にとって価値のある魚がいい魚

昨今、寿司店や和食店で高級魚のニーズが高まりを見せる一方で、漁獲量が減少し、各店で魚の取り合いが起きていることが気がかりでした。魚貝類全体の価格も非常に高騰しています。

「日本橋 蕎ノ字」では静岡の食材をメインに使用していますが、江戸前の天ぷら店として、車えびや穴子、鱚など、欠かせない食材もあります。ただ、けっして高級魚が絶対だとは思っていません。

実は1年ほど前から、西伊豆で獲れた未利用魚なども取り扱っています。主に、これまでは売り物にならずに廃棄されていた深海魚です。わたしは、未利用魚であっても養殖であっても、「自分にとって価値がある魚」がいい魚だと思っています。きちんと仕込みの手当てをし、衣の配合やつけ方、調理法次第で、驚くほど美味しいものにすることができる。姿揚げには不向きでも、かき揚げにすることでその旨みを際立たせることができる魚もあります。

養殖技術や保存・物流技術が発達して、いい食材がいい状態で届くようになっているので、自分が「天ぷらにしたい」と思ったものに出合えれば、ぜひ使ってみたいですし、未来あるクラフトフィッシュの活動にも期待しています。

文・山本愛理

PROFILE

Toshiyuki Suzuki
鈴木 利幸
Toshiyuki Suzuki
「日本橋 蕎ノ字」店主

1970年、静岡県島田市の老舗蕎麦店「細島屋」の長男として生まれる。天ぷらを揚げる祖父の姿に憧れ、調理師専門学校を卒業後、実家で7年、日本料理店で2年の研鑽を積む。20代の頃、「みかわ是山居」の初代店主・早乙女哲哉氏の天ぷらを食べて衝撃を受ける。2000年に独立し、島田市に天ぷらと蕎麦の店「蕎ノ字」をオープン。2016年10月に「日本橋 蕎ノ字」として東京・日本橋に移転。2019、2020年と2年連続でミシュラン1つ星を獲得している。