堤 亮輔

堤 亮輔
Ryosuke Tsutsumi
「Ri.carica」総料理長

「人」の心を映し出す、美味しくサステナブルで日本人らしいイタリアン

“サステナブルな料理とワイン”に焦点を当てたイタリアンレストラン「Ri.carica(リ・カーリカ)」をはじめ、東京・学芸大学エリアを中心に現在全6店舗を手がける堤亮輔シェフ。彼が真っ先に口にしたのは、「どんな時もいちばん大切にしているのは『人』」という言葉でした。

「僕ら料理人は、食材がないと何もつくれません。つまり味付けや火入れといった調理以前に、『どんな食材を使うか』を決めることが料理のスタートだと思っています。もっといえば、誰が・どのように・どんな想いでその食材をつくっているのか。生産者である『人』を知って初めて、スタート地点に立てるのです」

 ナチュラルワインとの出合いをきっかけに、食材にはつくり手それぞれの個性やメッセージが表れることを知ったという堤シェフは、今でも月に1度は必ず生産者のもとへ足を運び、彼らと直接言葉を交わすのだそう。そしてその想いを一皿の料理で表すことが、自身の仕事だと語ります。

 「生産者やインポーターの方々の声は、僕の教科書であり糧でもあります。それぞれの食材やワインは、まさに彼らの努力の結晶です。そこに込められた想いをまっすぐお客様に届ける方法を考えるうちに、自分がつくる料理から余計なものはどんどん削ぎ落とされていきました。今、注目しているのは日本古来の発酵技術。素材がもっとも活きる手法を使って、美味しくサステナブルで、日本人らしいイタリアンを表現していきたい」

CHEF’S VOICE:
養殖も畜産や農業と同じ。生産者の声を伝える商品づくりをしたい

これまで店では、養殖魚を使う機会がほとんどありませんでした。理由は単純で、使用する食材はすべて農家や産地の鮮魚店、漁師さんなどから直接仕入れているからです。

ただ、けっして養殖に対してネガティブなイメージを持っているわけではありません。「人が育てる」という視点で見れば、畜産や農業と同じだと僕は思っています。平飼いの鶏や自然の森に近い環境で栽培されたキノコなどのように、大事なのはその養殖魚がどのように育てられているか。そしてそれを支えているのはやはり「人」であり、そこには必ずストーリーが生まれます。これまで出会った畜産農家や醸造家の方々と同様、養殖現場の方々の声もぜひ聞いてみたいと思い、今回CRAFT FISHに参画しました。

今僕たちは、規格外の食材なども使いながらオリジナルブランドの調味料や冷凍食品を開発しています。今後は養殖魚を使った商品にもぜひチャレンジしたいですね。海の資源の危機が叫ばれる中、スーパーで形や大きさがそろった魚だけが高額で売られているのを見るたびに、胸が締め付けられるような思いになります。限りある自然の恵みを生かすも殺すも、またよりよい食材を生み出すことができるかどうかも、すべては「人」の手にかかっている。地球、生産者、料理人、お客様、みんながハッピーになれるような取り組みができれば嬉しいですね。

PROFILE

堤 亮輔
Ryosuke Tsutsumi
「Ri.carica」総料理長

1978年生まれ。東京都出身。大学を中退してイタリアへ渡り、帰国後に辻調理師専門学校を卒業。フレンチレストランや和食店での経験を経て、オーストラリアワイン専門のワインバー「AROSSA(アロッサ)」で佐藤幸二シェフに従事。その後、駒沢大学のイタリアン「Tu Sei Grande(トゥ セイ グランデ)」でシェフ兼店長を4年間務め、2013年に「リ・カーリカ」をオープン。現在は学芸大学エリアを中心に全6店舗を手がける。